<マッチレビュー>
今節、東京が迎え撃つのは開幕から無敗の湘南ベルマーレ。上位勢をホームで叩いて勝点3を積み上げ、白星を先行させて上位争いに食らいついていくためにも絶対に勝利が必要なゲームとなる。
クラブ史上初の開幕3連勝を記録した湘南は前節の引き分けで首位の座こそ明け渡したものの、ここまで勝点10で2位につける好調さが光る。山口監督に率いられて抜群の組織力と前線が持つ強烈な圧力でスタートダッシュに成功した形だ。
東京は前節からスタメン3選手を変更。ゴールキーパーに野澤大志ブランドン選手が構え、3バックは右から土肥幹太、森重真人、岡哲平の3選手が並んだ。ウイングは右に白井康介選手、左に安斎颯馬選手を配置し、ボランチは復帰後の味の素スタジアム初スタメンとなる橋本拳人選手と高宇洋選手が2試合連続でコンビを組む。前線はインサイドハーフに仲川輝人選手と俵積田晃太選手、1トップには山下敬大選手が入った。白井選手にとってはプロとして初めて在籍した恩あるクラブとの対戦、山下選手にとっては覚悟の期限付き移籍で新天地に選びながら大怪我で悔しい経験をした思い出深いクラブでもある。
また、今節はベンチにフレッシュなメンバーが目立つ編成となった。木村誠二選手と西堂久俊選手は移籍後初のベンチ入り、アカデミー時代の2019シーズンにFC東京U-23で明治安田生命J3リーグ出場経験を持つ常盤亨太選手にとっては、J1リーグで初めてのメンバー入りとなった。松橋力蔵監督は湘南戦前日、若手選手の起用について「自分の役割は教えるとか伝えることではなく、しっかりと見て、彼らの持ち味を引き出してあげること」と話していた。若い力が持つ可能性をどう試合に組み込んでいくのかにも注目しておきたいところだ。
試合前に粉雪がちらつくほどの肌寒い気候のなか、ホーム連勝を狙う一戦は16時3分にキックオフを迎えた。
1stHALF—ボールを保持してチャンスを作るもゴールに結びつかず
序盤は一進一退、お互いに探り合うような展開が続く。東京は橋本選手がやや低いポジショニングでビルドアップに加わり、土肥選手と岡選手がサイドに開く可変システムで攻撃の構築をめざしていく。
前半7分には橋本選手が左サイドを持ち上がって相手守備網を破るようなスルーパス。これに安斎選手が抜け出したが、相手ともつれてチャンスを作り切るには至らなかった。続く前半11分には山下選手の果敢なプレスを起点に安斎選手がカット。だが、これを受け直した山下選手のシュートは相手ディフェンダーにブロックされてしまう。
最初のビッグチャンスは前半17分だった。左サイドから中央へ山下選手、高選手とつないだボールを俵積田選手がシュート。ボールはわずかに左へ逸れたが、細かなパスワークから敵陣を崩しにかかっていく。

良い距離感でリズミカルにボールをつないで押し込む東京。前半26分には攻め込んだコーナーキックからカウンターを食らいかけたところで岡選手が鮮やかに身体を入れてカットすると、右サイドで俵積田選手、仲川選手が立て続けにクロス。最後は山下選手がファーサイドで打点の高いヘディングを合わせたが、ゴール寸前のところで相手ゴールキーパーがセーブ。惜しくもラインを割ることはできなかったが、東京が戦術的に相手の持ち味を封じつつ、球際の攻防でも優位に立って試合を進める。
前半は試合途中から降り出した冷たい雨のなかで青赤イレブンが躍動。ゴールこそ奪えなかったものの、ボールを保持しながら崩しの再現性を求めていくサッカーを披露した。あとはフィニッシュの部分で精度と怖さを出し、先にゴールネットを揺らしたいところ。試合はこのままスコアレスで前半を折り返した。
2ndHALF—数多くのチャンスを作るもスコアレスドロー
ハーフタイムはともに選手変更なし。後半に入っても球際の競り合いで気迫を見せ、前線からのプレッシャーを弱めることなく攻守に奮闘する東京。後半7分には白井選手のクロスからニアに仲川選手が飛び込むなど、果敢な姿勢でゴールをめざしていく。
両サイドで起点を作るだけなく、最終ラインからインサイドハーフへの縦パス、敵陣に押し込んでの細かなパス交換など、再現性を持ちながらも一定の形にはまらない攻撃でチャンスを作るシーンが増える。
後半15分には左サイドで基点を作ると、オーバーラップした岡選手が仲川選手とのワンツーで中央へ抜けて右足でシュート。これは大きく枠を外れてしまうが、連動した攻撃の流れでセンターバックがフィニッシュに絡む素晴らしいアタックとなった。その後も左サイドを中心に攻撃を仕掛けていくが、グラウンダーの折り返しが中央で合わないシーンが続いてしまう。
最初の選手交代は後半18分、山下選手に代えて佐藤恵允選手を投入。仲川選手を最前線に、佐藤選手を右のインサイドハーフに置いて前線の圧力を強めるべく動く。
その佐藤選手がビッグチャンスを生み出す。後半22分、右サイドで高選手の浮き球パスに抜け出すと、相手ディフェンダーのマークをものともせずに力強く突進。ゴールライン際まで持ち運んでマイナス方向に折り返すと、ここに走り込んだ俵積田選手が右足でダイレクトシュート。決定的なシーンだったが、ボールは惜しくもクロスバーを越えて先制点には至らない。
東京の猛攻は続く。各選手が積極的にボールに関与し、セカンドボールを拾いながら敵陣に押し込んで試合を進めていく。後半28分には白井選手、橋本選手に代えて右ウイングに小泉慶選手、ボランチに常盤選手を投入。常盤選手はこれがJ1リーグ戦デビューとなった。
後半32分には自陣深くでつなぎながらスピードアップし、中央で受けた仲川選手が前方へドリブル。ここでボランチの常盤選手が右サイドを抜け出して柔らかいクロスを入れると、中央で待ち構えた俵積田選手がヘディングシュート。だが、これはゴールキーパーの正面を突いてしまい、またもビッグチャンスを決めることができない。
湘南にもカウンターでシュートまで持ち込むシーンが生まれはじめているが、守備陣が集中したディフェンスを見せて失点は許さない。前節鹿島アントラーズ戦の教訓からも、何とか先にゴールネットを揺らしたい状況が続く。後半38分には俵積田選手に代えて野澤零温選手を左インサイドハーフに送り込み、松橋監督はさらに前線を活性化させていく。
大粒の冷たい雨が降りしきるなかでも応援を続けてくれるファン・サポーターに勝利で応えたい青赤のキャプテンが後半42分、右サイドからの強烈なミドルシュートでスタンドを沸かせる。後半45分にはビルドアップの流れから土肥選手が敵陣コーナーフラッグ付近までオーバーラップ。ゴールネットを揺らすべく懸命の戦いが続く。

4分間の後半アディショナルタイムも猛攻は続く。押し込んだ状態からゴール前で混戦となり、こぼれ球を高選手がシュート。ブロックされたこぼれ球を仲川選手が狙ったが、決定的なシュートはクロスバーを越えてしまう。さらに右サイドからのグラウンダークロスを中央で小泉選手がスルーし、野澤零温選手が狙い澄ました右足シュート。だが、これもわずかにゴール右へ外れてネットは揺らせず。
戦術的にも個々のバトルでも上回って数多くのチャンスを生み出したが、フィニッシュだけが決まらず、試合はスコアレスのままドロー決着。臨機応変さと多彩なアタッキング、集中したディフェンスに確固たる手応えを感じつつも、改めて決定力という課題を残すゲームとなった。
MATCH DETAILS
<FC東京>
STARTING Ⅺ
GK野澤大志ブランドン
DF森重真人/岡哲平/土肥幹太/白井康介(後半28分:小泉慶)
MF安斎颯馬/高宇洋/橋本拳人(後半28分:常盤亨太)/俵積田晃太(後半38分:野澤零温)
FW山下敬大(後半18分:佐藤恵允)/仲川輝人
SUBS
GK波多野豪
DFエンリケ トレヴィザン/木村誠二
MF西堂久俊
FWエヴェルトン ガウディーノ
MANAGER
松橋力蔵
GOAL
ー
<湘南ベルマーレ>
STARTING Ⅺ
GK上福元直人
DFキム ミンテ/鈴木淳之介/畑大雅
MF鈴木雄斗/藤井智也/小野瀬康介/奥野耕平/平岡大陽(後半25分:石井久継)
FW鈴木章斗(後半25分:ルキアン)/福田翔生(後半45+2分:根本凌)
SUBS
GK真田幸太
DF大岩一貴/松村晟怜/髙橋直也/大野和成
MF茨田陽生
MANAGER
山口智
GOAL
ー
[松橋力蔵監督インタビュー]

Q、本日の総評をお願いします。
A、本当に寒いなか、多くのファン・サポーターのみなさんがスタジアムまで足を運んでくださってありがとうございます。そんななか、勝点1という結果になってしまったのは非常に残念です。試合をとおしてですが、とくに前半は両チームとも固い展開でした。後半はもう少しチャレンジする場面をつくるために、アドバイスであったり、個々の選手へのアプローチをしたなかで、彼らがそういう部分を発揮してくれて時間帯によっては優位に進めることもできました。終盤にかけては前節同様に決定機がいくつもありながら決め切れなかった。そういうところで結果的にドローになってしまった。非常に悔しいですし、なぜなんだろうという思いもありますが、諦めずにまた次節に向けて準備したいと思っています。
Q、前節と違って無失点に抑えたことで勝点1を得ることができましたが、守備の評価を教えてください。
A、まさに本当にプランどおりに自分たちが準備してきたこと、それとこれまで積み上げてきたことが非常に良くできました。エラーが起きた時にも、そのエラーに対しての対応も非常に素晴らしかったと思います。終盤にかけては、おそらくこのような展開になるであろうということも踏まえて、交代も1枚残したなかでの判断でしたが、そのなかでしっかりと最後まで粘り強く戦ってくれました。無失点に抑えられて良かったというところだけでなく、しっかりと相手の矢印を折り、カウンター攻撃につなげられたというところも含めて、非常に素晴らしい守備をしてくれたと思っています。
Q、そのなかで、2試合連続のスタメンとなった橋本拳人選手と、今日がJ1リーグデビュー戦となった常盤亨太選手の評価を聞かせてください。
A、橋本選手は非常に素晴らしいパフォーマンスを出してくれたと思います。最後は90分はもたないところがあったかもしれませんが、90分もたせるというよりも自分が今できることに対して100パーセントの力を発揮してくれているという意味では、非常に良い活躍をしてくれたと思っています。常盤選手に関しては、キャンプから本当に良い姿勢、コンディションというものを保ちながら、パフォーマンスも含めて非常に期待できるプレーをしてくれていました。ただ、シーズンに入って試合が始まると同時に、少しずつ波が見えてきたところがあったので、なかなか出場というところまではいっていなかったですが、今日のメンバーに入るうえで非常に良いパフォーマンスをしてくれて、そのパフォーマンスをこのゲームでもしっかり発揮してくれました。前節の北原槙選手もそうですが、試合を経験することによってまた一つ前進できるように、今日のゲームを次に活かしてほしいと思っています。
Q、湘南ベルマーレの攻撃に対しての対策として、監督からの指示があったのでしょうか。
A、守備に関しては、時崎悠コーチと話をしてプランを立てながら彼が主導でやっているところがあり、それを聞いて自分が持っている意見をすり合わせています。選手もセッションでは非常に集中してやれている部分があります。まずは前線の3枚の役割が非常に大きいです。ここではあまり申し上げられませんが、前線ありきの守備のなかで、どこにボールを出させてどのように行くかというところ。ただ、やはり自分たちのプランどおりにはいかずに、かいくぐられるシーンもありますが、そのシーンや相手のストロングが出た時の対策もしっかりと構築してくれています。そういう部分での表現も今節はしっかりとできました。今節に限らず、選手自身も手応えを感じているのではないかと思います。そういう発言も聞きますし、今節に関しては攻撃につなげることができていることが非常に大きかったなと。プランを立てるうえではそこまでやっているので、やっていたトレーニングが今日そのまま出せたことは、今後の強みにもなると思います。それをもっと質の高いものにしていくことが、次の段階では大事になってくると思います。
Q、松橋力蔵監督というとポゼッションサッカーのイメージがありますが、今日のFC東京はカウンターがうまく決まっていました。いまはチームを作り直しているのか、あるいはそのチームの良さを活かすように考えているのでしょうか。
A、どちらかというと、やはり我々の持っている良さを前面に出しながら、少し脇をくすぐるくらいです。トレーニングのなかにはそういうセッションも入れて、少しずつ積み上げています。選手たちの意識や感度の様子を見ながら今は進めているので、そこまで前面に出ているという感じではありません。ただ、ゲームのなかでは選手が感じる部分もありますし、もちろん私もこういう時にはというフィードバックをしっかりしながら、次の段階ではこういうところにトライしてほしいということを言うと彼らは必ずやってくれます。少しずつですが色々なものが積みあがっている状態だと思います。キャンプの時には、そこが色濃く出ていたゲームがいくつかありましたが、実際のゲームになってくるとやはり相手も対策してくるので、選手がゲームの流れ、ゲームリーディングをしっかりと持ったなかでやるうえでは、あまり自分の考えていることを押し過ぎないように考えながらやっています。
[選手インタビュー]
<仲川輝人選手>

Q、試合の振り返りをお願いします。
A、どちらに勝利が転がり込むか分からない試合だったと思います。どちらにもチャンスや主導権を握る時間帯はありましたし、その時に僕らが決め切れなかったことが今日の結果に繋がったと思います。
Q、松橋監督も監督会見で前線3枚の守備を評価していました。仲川選手個人の守備の貢献度も非常に高かったと思います。
A、相手のシステムと対峙した時に、ズレが生じてスペースが生まれてしまうことはわかっていましたし、タイミング良く降りる動きと味方に使ってもらう動きを特に意識していました。ボールに関わることで良い循環をもたらしたかったですし、攻撃のリズムをつくることを狙いとしていました。守備面では、相手の変則的なシステムでセンターバックがボランチの位置取りをするなど捕まえにくい動きがありましたが、事前のミーティングでスタッフから共有もあったので、しっかりと対策ができたと思います。あとは、セカンドボールの回収。拾えるか拾えないかでリズムや攻撃のチャンスが変わってきます。そこも一つのキーポイントとして意識していましたし、今日の試合もそこから生まれたチャンス、ピンチがあったと思います。
Q、チームとしての完成度が高まっているなか、あとは得点をどれだけ重ねられるかがポイントだと思います。
A、まずは守備面でしっかりとオーガナイズされていると思いますし、どこで奪うかを相手によって明確にできています。そこが試合を重ねるごとに良くなっている感触があります。このように得点が奪えない試合では、最後の最後で相手に得点を許してしまうパターンが昨シーズンは多くありました。今日のような展開で、ピンチのシーンでしっかりと耐えて無失点で終えられたことは良かったと思います。そこは進歩していることの一つです。攻撃面は、楔をいれるパスや相手陣地で押し込んだ後に、どのようにボックス内に進入して得点につなげるか、だと思います。攻撃面の進歩はプレーをしながら感じていますし、ゴール前で選手個々の技術を活かすためにも、冷静にプレーしていきたいです。僕自身、今日の試合で得点に繋がるチャンスを外していますし、全員が“あと一歩”のところまで来ているので、冷静にチャンスを仕留められるように次に向けて準備していきたいと思います。
<常盤亨太選手>

Q、J1リーグ戦、そしてホーム味の素スタジアムでのデビューでしたが、ピッチに立ってみていかがでしたか。
A、今までずっと憧れていた場所に、いざ立ってみると不思議な感覚でしたが、気持ちは平常心を保っていました。交代で呼ばれた瞬間も、いつもの試合の一試合みたいな感覚でした。変に力が入ることもなく、いつも通り試合に入ることができました。
Q、好調なチームを相手に、雨も強く降っていてピッチも滑るなかで途中出場するという、デビュー戦としては非常に難しい状況でしたが、どのように臨みましたか。
A、まずは、0-0だったので失点しないように守備を意識しました。特にボランチは相手の2シャドーに対応するのが、ベンチから見ていて非常に大変そうだったので、そこはやらせないように入りました。ただ、勝つために交代で投入されたので、得点を奪いにいきたいとも思っていました。
Q、常盤選手の攻守における縦の運動量がチームを助けていたと思います。
A、後ろが重たくなっていたので、前からプレスにいくことで相手にボールを戻させるようなプレーを積極的に狙っていきました。前にプレスをかけることで自分の背後のスペースを作りすぎるのも怖かったですが、バランスをとりながらプレーできたと思います。
Q、湘南に押し込まれる時間帯のなかで、自分たちのペースに戻すきっかけになるようなプレーを、常盤選手自身が引き出せていたように見受けられました。
A、盤面を動かすようなプレーはできていないですが、チームを引き締めるプレーを少しはできたのではないかと思います。
Q、デビュー戦でしたが、チームは勝ちきれませんでした。
A、デビュー戦だから特別だという気持ちはなく、リーグ戦の一試合として勝たなければいけない試合に途中出場してチームを勝たせることができなかったので責任を感じています。とにかく勝ちたかったです。


