神の来訪<br />
Diego Oliveira

COLUMN2025.4.28

神の来訪
Diego Oliveira

記憶をたどる旅というには、まだそれほど日も経っていないかもしれない。ただ、9試合ぶりの歓喜に沸いた国立競技場でのガンバ大阪戦には、ディエゴ オリヴェイラのメモリーレーンが広がっていた。

クラブのJ1リーグ歴代最多得点保持者でもあるレジェンドが、青赤のクラブアンバサダーとなって約5か月ぶりに帰ってきた。つい数か月前まで毎日通っていた小平グランドを訪れ、すべてを懸けて戦った国立競技場や味の素スタジアムにも足を踏み入れた。母国ブラジルへの帰国後は、愛する家族と平穏な日々を過ごしているという。新たにマイホームを建てている最中で、「やることと言えば、家の手伝いと、子どもの送り迎え、筋トレ、シュラスコくらいかな」と笑顔で話す。


「今は家族と一緒にいる時間が長くなったからね。自分にとってはこれまでと違った新たな人生を過ごせているよ。5か月ぶりに戻ってきたけど、本当にたくさんの友だちが日本にはいっぱいいるから、その人たちと再会できたことを非常にうれしく思う。先日の試合で、自分も国立競技場で一緒に応援できて、そこでチームが勝てたことが何よりもうれしい

チームはリーグ戦で8試合勝利から遠ざかり、彼も「どうしたんだ。大丈夫なのか」と心配して関係者席から試合を見守っていた。その不安を吹き飛ばす白星に“勝利のディエゴ神”は安堵した。

「チームが非常に苦しんでいることは私も知っていたからね。難しい試合だったけど、本当に待ち望んだ勝利と勝点3を奪えたことは良かった。私も本当にうれしかったよ」

その立役者となった選手たちは、ディエゴにとっても思い出深い選手たちだった。途中出場で試合の流れを変え、2点目を挙げた高宇洋は、初対戦となった試合後にディエゴが“出待ち”をして声をかけた選手だった。


高にとってもそれは思い出の一場面となっている。2023年4月29日に行われたアルビレックス新潟戦はディエゴの決勝弾で東京が2-1で勝利。その試合後、新潟の選手だった高が着替えを終えてロッカールームを出ると、目の前にはさっきまで試合で対戦していた相手チームのエースが立っていた。自分を待っていたと聞いて「何で」と驚き、そこから矢継ぎ早に質問攻めにされた。最後に「うちに来てくれよ」と誘われ、高は「すげぇうれしかった」と当時を振り返っていた。

あの日、実力を認めた男が青赤のキャプテンマークを巻き、自らの愛するチームをけん引する姿にディエゴは目を細めた。

 
「過去に対戦したこともあるし、昨シーズンはともにプレーした。ヤン(高選手のニックネーム)が素晴らしい選手であることは私が言うまでもないでしょう。でも、彼は人としても素晴らしい人間性を持っている。ピッチ内でも非常に献身的で、よく走り、頑張るプレーヤーだ。先日の試合ではキャプテンマークを巻いて東京を代表する選手としてピッチに立っていること、そして彼がキャプテンとして活躍していることをうれしく思う。一緒にプレーしていても常に私へのリスペクトを感じながら戦うことができていたし、私も彼に対して本当にリスペクトの気持ちを送っていた。彼は尊敬できて、見本となれる選手だ。私もともに戦えたことをうれしく思っているし、私にとっても素晴らしい経験だった」

さらにもう一人、主役となった俵積田晃太のプレーには感嘆の声を上げた。個人技を活かした先制点もそうだが、ディエゴを喜ばせたのは3点目のプレーだった。現役時代から「タワラがめざすのはドリブラーなんかじゃない。あいつは点がとれる選手になれる。自分のゴールでこのチームを勝たせる。そう思えるかどうかなんだ」と言葉にしてきた。その理由をあらためてこう語っていた。

 
彼はまだ若い選手だけど、本当にクオリティも力もある。みんながその力を知っている。私が言うまでもなく、素晴らしいものを持っている。一緒にプレーをしていた時、彼には色々な話をしたんだ。わずかばかりの経験かもしれないが、こうしたほうが良いという話をしたこともあった。試合中にパスを出してくれないことで、私もストレスを感じたことも正直あった。でも、それは自分だけがおいしいところを持っていこうとしたわけではなく、パスを出すべき状況もあると思っていたから。

彼にも伝えたけど、もちろん1対1の力強さは非常に良いものがある。そこはこれからも持ち続けつつ、もっと強く、自分の特長や武器として鍛えてもらいたい。ただ、サッカーはチームプレーでもある。彼のところにマークが三人、四人と来たりすることだってある。やっぱりそこを一人で突破するのは難しい。逆に、彼のさらなる力を引き出すためにも、周りのチームメイトを使ってリターンパスをもらうことが、彼自身のより良いプレーにつながる。それがチームをより一層良くさせると思っていたんだ。

もう彼と一緒にプレーをすることがないのは残念だし、私が現役時代に話していたことは飲み込んでもらえなかったのかもしれない。ただ、彼にはさらに素晴らしい選手として活躍してもらいたいし、そういったところを引き出せれば、もっとレベルアップして次のステージに上がっていくはず。これからも応援したいね」

G大阪戦の終了間際、俵積田はワンタッチで高にボールを預け、敵味方が密集するエリア内に潜り込んでリターンパスを引き出してみせた。結果的に彼の放ったシュートがオウンゴールを誘発する。この味方を使ったプレーこそ、ディエゴが見たかった姿だという。


私の言葉がどれだけ彼に伝わったかは分からないけれど、彼がそう思ってプレーしているのだとしたら非常にうれしく思う。彼にはより一層成長してもらいたいし、私もそれを願っている。前節のG大阪戦は私が言うまでもなく、難しい状況を切り開いて本当に素晴らしい働きで先制点を決めた。彼が試合を決めたと言っても過言じゃない。あそこから3点も入ったからね。彼個人の力でやりきった素晴らしいゴールだったと思う。

3点目のように彼が周りと絡みながらチームメイトを使っていくことができれば、今まで以上に彼の力が引き出される。タワラの素晴らしいプレーは、みんながこれから先も見たいと思っているだろうし、個人技あふれるプレーを続けてもらいたい。これからもっともっと経験を積めば、色々な景色が見えてくるし、色々なことを感じられる。これから先、きっと素晴らしい選手になれると信じているよ

そして、同い年のアミーゴの変わらぬ姿に胸打たれたという。相棒の東慶悟は現役時代から惹かれ合う存在だった。久しぶりに再会すると、第一声には「早く練習着に着替えないとダメでしょ」と言われ、ディエゴもまんざらでもなかった様子だった。

 
チームメイトのみんなが大事な選手で、大切なアミーゴだけど、そのなかでも慶悟やモリ(森重真人)は私にとって特別と言っていいくらいの存在だよ。慶悟とは私が東京に加入した初日から今日に至るまで、私を様々なことで助けてくれて、敬ってくれた。私も彼のことが大好きだし、非常に素晴らしい選手、素晴らしい人間だと思っている。私にとっては理想の選手であり、人間だと思うよ。

慶悟が私と一緒にプレーしたいと言ってくれたことを本当にうれしく思う。チームがもしもう一度自分を必要だと言ってくれるのであれば、本当に私も戻りたいという気持ちはあるんだ。私も一緒にプレーをしたいと思っているし、本当に慶悟には感謝の気持ちで一杯だよ

試合終了の笛が鳴ると、愛するクラブが長いトンネルを抜け出す姿にホッと胸をなで下ろした。母国ブラジルから遠く離れた日本で深めた絆はこれからも変わらないという。

このチームに加入してからチームメイトやクラブに関わるみなさんから色々なプレゼントをいただいた。プレーヤーとして自分が成功を収めることができたのは、多くのプレゼントがあったからこそ。そのことに改めて感謝したい。この気持ちはこの先も決して忘れることはないし、これからは逆にチームのために色々なことをできればと思っている。今は色々なプロジェクトを考えている最中なんだ。まだ具体的に話せるような段階ではないけど、もう少し色々なことを考えて新たなプロジェクトを成功させたいね


数か月ぶりのインタビューの最後は現役時代よりもたくましくなった二の腕の秘密を探ろうと、「筋トレは現役復帰に備えていたから」と聞いた。すると、ディエゴは小刻みに首を横に振ってこう答えた。

今までは選手としてトレーニングをしていたけど、引退して練習をしなくなると身体が弱ったり、体型が変わったりするから、自分の健康のためにも筋トレをしていたんだよ。もちろんチームが自分を必要だと言ってくれるなら、またしっかりと準備をしてここに戻ってきてもいいよ(笑)

締めはいつもの「Obrigado Diego」だったが、こっそり「いつでもお待ちしています」の気持ちを忍ばせておいた。

 

(文中敬称略)

 

Text by 馬場康平(フリーライター)